敷金返還について

 全国で提訴急増中なのが、賃貸住宅の契約時に納めた敷金の返還を請求する訴訟である。これは、賃貸住宅の賃貸契約解約時に、「通常の使用による損耗の修繕などにかかった費用は借主の負担とする」などの原状回復に関する特約や「契約終了に際し、保証金から○○万円を差し引いて変換する」などの「敷引」に関する特約のあることを理由として、納められた敷金の全額もしくは一部を変換しない賃貸人に対して支払いを求めるものである。
 大阪簡判平15.10.16は、40万円の保証金から30万円を差し引いて返還するとする「敷引」の特約に関して、敷引という慣習のあること自体は認めたものの、契約書に敷引金額が記載されているだけで、その趣旨や内容が明示されておらず、口頭での説明もなく、また一律に保証金から一定額を差し引くこととなる敷引特約は、消費者の利益を一方的に害する条項であるといえるから、消費者契約法10条により無効であるとした。
 また、京都地判平16.3.16は、20面円の敷金全額が原状回復費用として差し引かれ、変換されなかった事例で、自然損耗による原状回復費用を賃借人に負担させることは、契約締結に当たっての情報力および交渉力に劣る賃借人の利益を一方的に害すると判断し、消費者契約法10条に基づいて特約自体を無効と判断した。
 特約自体を消費者契約法によって向こうと談じた判決は初めてのものであり、今後の判決の動向が注目される。
 なお、平成16年2月に国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインhttp://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/kaihukugaido.htm
が改定された。それによると、原状回復を「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義し、その費用については賃借人の負担、それ以外のいわゆる経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は賃料に含まれるものとされている。